2年振りの出場となった鹿島と2年連続出場のシルバースターとの間で争われた第13回東京スーパーボウルは90年代の最後を飾るに相応しいすばらしいゲームとなった。
ドラマは、試合の、いやシーズンがまさに終わろうとしているそのわずか2分の間に起こった。
前半を7−0とリードして折り返した鹿島は、後半に入ってシルバースターのエースRB中村の活躍などによって、一度は7−12と逆転を許したものの、第4Q入ってすぐにRB堀口のロングゲインをきっかけに13−12と再逆転に成功する。
さらに鹿島は、自陣4ヤードからの攻撃をFGに結びつけ16−12とリードを広げることに成功。続くシルバースターの攻撃を3回でパントに追い込むと、あとは自陣30ヤードからの攻撃で、残り5分30秒を出来るだけ消費しながら得点に結びつけることだけを考えていればよかった。
特にこのシリーズでは、後半から出場しているRB池場が躍動感あふれる走りで、シルバースターディフェンス陣を翻弄、TE板井のワンハンドキャッチなども飛び出し、ダウンの更新を重ねていた。
鹿島が敵陣33ヤードでファーストダウンを得た時には、残り時間も3分を切っており、もう一度鹿島にダウンを更新を許せば、時間的にも、またFGの射程範囲内に入るという意味からも、シルバースターにとって窮地に立たされることは目に見えていた。
1stダウン10、鹿島にホールディングの反則。1stダウンリピート19、RB池場のパワープレー。しかしこれはシルバースターディフェンスが踏ん張ってロスゲイン、2ndダウン23までに追い込む。
時間は着々と進んでおり、もうじき残り2分を切ろうとしている。鹿島はここでドローをコール。パスを警戒するシルバースターディフェンスの裏をつき、RB池場がスルスルと抜けていく。鹿島ベンチに取っては期待以上の効果だったろう。
堅実にボールを進めるどころかファーストダウンまで届いた、と思ったその瞬間だった…。
RB池場の手からボールがこぼれた。そのボールをシルバースターDB岩田がリカバー。残り1分45秒でシルバースターが自陣11ヤードからの攻撃権を得る。
QB金岡にとって最高の舞台が用意された。
「日本最高のQB」とまでいわれ続けながらも、これまで自らの手で勝ち取ったことのない栄冠を手に入れるそのチャンスが1分45秒という時間の中に残されていた。
得点差は4点。金岡の2ミニッツオフェンスが始まる。稲垣・梶山・梶山・橋詰・橋詰・稲垣と6回続けてパスを決め、敵陣17ヤード。残り時間は38秒。
しかし鹿島ディフェンス陣も、そう簡単に得点を許すようなメンバーではない。ここから続けて梶山にパスを放るが、いずれもDBのカバーが良く失敗。3rdダウン10。残り31秒。
しかもシルバースターはここで交代違反の反則を犯してしまう。5ヤードの罰退で3rdダウン15。QB金岡が自らキーププレーで5ヤードゲイン。フィールド内でダウンしたために時計は進む。シルバースターが最後のタイムアウトをコールする。
総立ちのシルバースター応援席。祈るように見つめる鹿島側ベンチ。全員が手をつないで見守るシルバースターベンチ。4thダウン10ギャンブル。残り24秒。
10ヤード走って振り向いた梶山の手にQB金岡からのパス。これぞまさにホットライン。ファーストダウン獲得に揺れる両チーム応援席。
残ったのは20秒、そして6ヤード。歓声が頂点に達した時、QB金岡がドロップバックを始めた。襲いかかる鹿島ディフェンス陣。ターゲットを探す金岡のその横でRB中村が捨て身のパスプロをしている。ダウンフィールドでは、WR梶山が一度外にカットを切ってスッと中に戻ってきた。
混沌とした中のピンポイントにQB金岡のパスが投げ込まれた―。
この瞬間、今季のシルバースターの、そしてQB金岡の全てが結実した。燦然と輝くフットボール界の銀星が再び光を放ち始めた瞬間でもあった。
「これだからフットボールはやめられない」シルバースター阿部監督のこの言葉に全てが集約されている。そして阿部監督はこうも言った。「これこそが、金岡なんだ」と―。
|