VOL6 ディフェンス編(ラン)
ポジションごとの役割と目的
【1】なぜランディフェンスは重要か

 パワーとテクニックはフットボールの魅力の両輪をなす重要な要素だが、そのパワーの部分を象徴するのがランプレーの攻防だ。
 パスの比重が高いNFLでもプレーオフに出場するようなチームは必ずと言っていいほど強力なラン攻撃を持っている。学生リーグやXリーグではラン・パスをほぼ均等に使う「バランスアタック」が主流だが、その中でラン守備とはどういう意味を持つのだろうか。

 オフェンスがランプレーを使う最大の目的はボールコントロールだ。ボールを所有している時間が長いほど相手チームの攻撃時間(つまり得点チャンス)が少なくなるから、試合に勝つ確率は高くなる。これがボールコントロール(クロックコントロールも同義)の考え方だ。
 パス攻撃に比べてターンオーバーを防ぎやすく、時間(試合時間の計時)が止まりにくいラン攻撃はボールコントロールの最善の方法なのである。
 ディフェンスの観点からみると、相手のラン攻撃を封じることはこのボールコントロールを阻止するという意味を持つ。また、ラン攻撃が不発ならばダウンは進んでも距離が出ない、すなわち、総論で述べた「オフェンスに長い距離を残させる」という状況を生むことができる。その結果としてオフェンスはパスを多用せざるを得なくなり、それだけ攻撃の選択の幅が狭まってディフェンスには守りやすくなる。
 パスがもたらす結果には、成功・失敗・インターセプトの3通りしかない。そのうちのふたつはディフェンスに有利なものだ。ラン攻撃を封じてオフェンスをパス一辺倒にさせることができればディフェンスは試合を有利に運ぶことが可能なのである。

 ディフェンスはポジションごとにプレーを読むためのキーが決まっている。プレーが始まる瞬間はそのキーを見てどのようなプレーが展開されるのかを判断する。
 試合を観戦する立場では具体的なプレーの種類まで読むのは難しいが、ボールがスナップされた直後にそのプレーがランかパスかを見分けるのは比較的容易だ。
 キーになるのはOLの動きだ。対面にDLがいないOLならば、比較的その動きがわかりやすいだ ろう。OLがパスプロテクションのために後方に下がる動きを見せればそのプレーはパスプレーである確率が高い。ただしこの動きからドローやスクリーンなどのプレーも展開される。OLが前進してDLやLBをブロックすれば確実にランプレーのコールだ。

【2】ラン守備におけるDL

 ラン守備におけるDLの役割は4つある。
 第1にボールキャリアーをタックルすること、第2にボールキャリアーの走るコース(ランニングレーン)をふさぐこと、第3にオープンへのプレーをコンテインすること、そして最後にOLのブロックを受け止めて、LBのタックルをアシストすることだ。

 OLとOLの間のスペースはギャップと呼ばれ、これがボールキャリアーのランニングレーンとなる。DLはそれぞれ自分が責任を持って守備するギャップがある。
 図1は4−3守備隊形におけるDTがOGとヘッドオン(対面)で位置した例。この場合はDTの左右にギャップがあるが、守るのは通常どちらか一方。このほかOLと半身ずれたかたちで位置するシェイド、ギャップの正面にラインアップするギャップアラインという、アライメント(選手の配置)がある。

 ボールがスナップされると同時に、DLはオフェンス側に向かって激しく突進する。パワーとパワーがぶつかり合う瞬間だ。このときDLは相手OLのブロックによって後退することだけは避けなければならない。最悪でもOLと衝突した位置を堅持し、プレーの方向を目で追う。プレーが自分のほうへ進んできたら、ブロッカーを外してボールキャリアーをタックルする。
 インサイド(両OT間)のランプレーの場合、ブロックを完全に外すことができなくてもOLをキャリアーのランニングレーンへ押しこむことによって走路を妨害できればいい。行き場をなくしたキャリアーは横へ逃げるしかなく、その間に他の守備選手が集まってきてタックルすればゲインを最小限にとどめることができる。

 オープンへのランプレーでは、ボールキャリアーにアウトサイドを回りこまれないようにDEがコンテイン(詳しくは後述)することが必要だ。
 プレーをインサイドに追いやってLBやSFのタックルを待つことが最優先事項とされる。

 LBをOLのブロックから守るというのもDLの重要な仕事だ。
 DLのアライメント(位置)はOLに近いから、プレーを見極めてから、それに反応するのは難しい。そこでOLのブロックをDLが一手に引きうけて、LBをフリーにし、タックルをさせるという戦略が採られる。
 DLが強くければ、OLはダブルチームブロック(二人のOLで一人のDLをブロックすること)を使ってくる。ダブルチームされたDLは、ボールキャリアーをタックルすることが難しくなるが、ブロッカーをひとり余分に受けることで、LBへのブロック要員を一人減らすことができるから、DLは十分に自分の仕事を果たしたといっていい。

【3】プレーメーカーとしてのLB

 ラン守備におけるLBの使命は単純明快だ。「ボールキャリアーをタックルする」ことである。
 言わばラン守備の主役だ。LBはDLがOLのブロックを受け止めてくれている間に、素早くボールキャリアに近づき、プレーを止めるのが仕事だ。だから決してブロックされて体のコントロールを失ってはならない。

 LBはスクリメージラインから離れて位置している分、プレーを読んでから反応する時間が与えられている。ボールがスナップされる瞬間はゲームプランでデザインされた動き(マンツーマンやゾーンカバーを実行する動きなど)をするが、プレーの方向を見定めた後はボールキャリアーを止めるためにボールを追わなければならない。これをパシュート(pursuit)という。パシュートではボールキャリアーのスピードを計算しながらを、キャリアーのやや前方に最短距離で到達するコースを走る。
 LBの反応は早いほどいいが、常にボールキャリアーのカットバックに備えておかなければならない。カットバックによってパシュートの逆を突かれる(オーバーパシュート)とロングゲインを許すことにもなるからだ。
 プレーを読むためにLBは、自分のサイドのOGやOT、自分に近い方のRBをキーにする。このキーはチームのシステムによって異なるが、一般的にはDLにカバーされていない(uncovered)OLを第1のキーにすることが多いようだ。

 図2の3つは、4−3守備隊形でOTがアンカバードの状態でのLBのキーの例だ。


a:OTがOGとともにDTをダブルチームブロックしている場合、プレーはほぼ間違いなくオフタックルにくる。したがってLBはオフタックルのギャップに突入してボールキャリアーをタックルしなければならない。


b:OTが右、または左にプルアウトした場合、プレーがその方向に展開することが多いから、LBもOTについて同じ方向に移動する。


c:OTがパスプロテクションのために後ろに下がった場合、パスを警戒して自分の決められた守備範囲(ゾーン)へ移動する。マンツーマンカバーの場合は自分の担当する選手に動きに合わせて動く。


【4】コンテイン

 DEやOLBなどDTの外側を守るディフェンダーは、ボールキャリアーにオープンを走られてロングゲインされることを防がなければならない。
 オープンを回りこまれるとディフェンスのバックフィールドを守るのはCBだけとなり、守備が手薄になる。インサイドに追い込めば、フィールドの逆サイドからパシュートしてくるディフェンダーがボールキャリアーをタックルしやすくなる。このように、外側の走路を封じてキャリアーにアウトサイドを走らせないことを「コンテインする」という。
 コンテインする選手はスイープなどのピッチプレー、ブーツレッグはもちろん、プレーが自分のサイドと反対側に進行した場合でもリバースプレーに備えなければならない。

【5】DBのランサポート

 DBが第一に警戒するのはパスだが、プレーがランだとわかった瞬間にランディフェンスに参加しなければならない。これをランサポートという。ディフェンスの「最後の砦」として、漏れてきたボールキャリアーをタックルしてエンドゾーンを守るのは当然だが、ディフェンダーがタックルしやすいところへキャリアーを追いこむ「ランフォース」も重要な役割だ。

 上記のコンテインと似ているが、コンテインによってオープンプレーをインサイドに封じておいて、さらにランフォースによってボールキャリアーを追いこむというのが基本的な考えかただ。

 プレーがランだと判断したらランフォースをするDB(フォースマン)はキャリアーの走路に突進する(図3)。
 リードブロッカーがいる場合は、それを受けてキャリアーをインサイドに追いこむ。サイドラインが近い場合はアウトサイドに追い込んでもいいが、オープンを回りこまれるとロングゲインにつながるので、インサイドへのランフォースを採用するチームが多い。


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