「奇跡ですわ。でも選手がよくやってくれた」。松下電工の村上監督の第一声だ。
試合終了まで残り1秒で奪ったTDで逆転勝ちした松下電工は、3年ぶり10度目のWEST優勝を果たした。
いつもとムードが違う松下電工。この1年間この試合を目標に練習してきた必死さがグラウンドに漂う。ディフェンスはLBなどの積極的なブリッツを多用し、アサヒ飲料QB新生に満足なパスを投げさせない。
また、不利と予想されたオフェンスもQB高橋(公)がパスを要所に決める。その気迫がまずカタチとなったのが、アサヒ飲料の攻撃権放棄のためのパントを、ラッシュしてきたLB霊山がブロックしたプレーだ。いきなりゴール前15ヤードからの攻撃となり、TDにつなげることはできなかったものの、FGをK太田がきっちりと決め3点を先制した。
一方のアサヒ飲料は相手のファンブルで得た敵陣49ヤードからのオフェンスで、QBに桂を起用。自らが持って走ったり、RB中村のスクリーンパスなどでゴール前に迫り、最後はショットガン体型からRB吉田へパスを決め7−3と逆転に成功する。
その後は、両チームともチャンスがありながら得点を奪うことができず、第4Qを迎えた。
ここでもアサヒ飲料がインターセプトから得たゴール前20ヤードからのオフェンスで、RB中村が力強く走りつづけ、最後もRB中村が、右のオープンを走りぬけTDを獲得。14−3とし、リードを広げた。
しかし、点を取られても気持ちの切れることのなかった松下電工。ここから怒涛の攻撃を見せる。
まずキックオフリターンをリターナーの高本が34ヤードのビッグリターン。ハーフライン付近からのオフェンスもTE門脇、WR下川へのパスでゴール前15ヤードまで迫り、最後はWR古本が高橋(公)の投じたボールをしっかりキャッチしTD。
TFPは2ポイントコンバージョンを狙って失敗したものの、14−9と追い上げる。
そして、直後のキックオフでK太田がオンサイドキック。
このボールが大きく跳ね、カバーに走っていた松下電工の野村がしっかりリカバーし、またしても松下電工が攻撃権を得る。
残りは3分8秒。関学時代の甲子園ボウルで『残り59秒、奇跡の同点劇』を演じた高橋(公)が、いかにプレーするかに注目が集まる。そしてその心臓の強さが遺憾なく発揮される。
ハーフライン付近からWR松岡へのパスで1stダウン。次は新人QB高橋(幸)がWR塚崎へパスを決め再び1stダウン。続いて高橋(公)がWR松岡にまたもパスを決め、ゴール前4ヤードまでと迫った。
ここから鉄壁のゴール前ディフェンスをみせるアサヒ飲料に対し、RB安藤のオープンへのラン、高橋(公)からWR下川へのパスでゴール前1ヤード。
最後は「高橋(公)が自分で(ベンチから指示のプレーを)変えた」(村上監督)という、RB安藤の左オープンランが決まってTD。残り時間1秒での奇跡の逆転劇を演じた。
村上監督は「2本目のTDを奪われても集中できていたことが大きかった。コーチの足りない部分を選手たちがよく補ってくれました」と満面の笑みだ。
一方のアサヒ飲料・藤田ヘッドコーチは「負けないと判らないが判って良かったと思います。守って勝っても意味がないですからね」とファイナル6へ向けたチームの立て直しを誓っていた。
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